6.生物-文化の多様性を保全する上で大事な里山

今日、日本の生物多様性は、4つの危機に直面しています。
第1の危機は、人間活動の強い影響で生物が絶滅の危機にさらされることで、例えば、乱開発や乱獲といったオーバーユース(過剰利用)の問題です。
第2の危機は里山の危機とも言われるもので、アンダーユース(過少利用)による問題、つまり、カタクリ生息地の減少に見られるように、人間が自然に関わっていた度合いが少なくなったことによる危機です。
第3の危機は、外来種や自然界にはなかった化学物質などが環境中に放出されたことによる問題。
第4の危機として、地球温暖化による世界的な危機もあります。

これらの中で里山の危機は、一般にあまり理解されていない問題だと思われます。しかし、環境省の報告によれば、絶滅危惧種が集中する地域の6割は里山にあり、白神山地や屋久島のような原生的な自然よりも多く分布しています。かつては身近な普通種だったメダカやギフチョウなどが絶滅危惧種となり、残された里山を貴重な生息地としています。こうした事実が明らかになったため、生物多様性を保全するうえで里山は重要なエリアであるとして、国はさまざまな保全策を講じるようになりました。
2002年に策定された「新・生物多様性保全国家戦略」では、里山への手入れ不足が日本の生物多様性を脅かしていると明記されました。2007年には、持続可能な社会のモデルとして日本の里山を世界に発信していく「SATOYAMAイニシアティブ」が提唱されました。いまや、国を挙げて里山保全を図っているといえます。

また、里山の生物多様性に注目するならば、そこに暮らす人びとの文化の多様性にも注目しましょう。人びとは、地域ごとに、いつどのように身近な自然に働き掛けたらいいかというローカルな知恵や技を守ってきました。
たとえば、かつてのため池では、定期的に水を抜き、魚を捕って食料にしたり、底泥を水田に戻して肥料にしたりなどして、過剰な栄養分を除去して池の水質を維持していました。この池干し作業では、地域の長老が池の底にある栓を緩め、池の水とともに溜まった泥を下流側に流すのですが、そうした機会がなくなると、ため池とともに暮らす知恵や技も消滅します。そして、冒頭に示した昔話の意味が通じなくなっているように、自然とともにある言葉も失われているのです。

地域には、人びとが継承してきた地域知があります。おそらく、長ければ数百年~数千年という単位で親から子へ、子から孫へと受け継がれてきたものでしょう。それが、燃料革命後の約50年の間で、人々が自然とかかわらなくなったために、地域に根ざした知恵や技、文化が失われつつあるのです。里山では生物多様性だけではなく、文化多様性もなくなりつつあるといえます。

つまり、里山を守ることは、地域の自然遺産を守ると同時に文化遺産も守ることに繋がるから大事なのです。