田口正男(トンボ研究者、農学博士)

近年、グローバルな環境問題として、熱帯林をはじめとする地球上の生き物を守ることが求められています。生物の多様性を守るという観点からすると、多くの人間が住む都市においても、人と自然の共生が求められます。日本の里山は、人びとが暮らす地域のなかで、さまざまな生き物をはぐくんできたことから、世界からも注目を集めています。

小松・城北地域には、日本を代表する里山がみられます。私は、環境の質を示す指標性の高いトンボの調査を通して、人と自然の共存の仕組みを探ろうと思い、この地域に通いつめて40年以上になりました。ここでは、トンボを中心に生き物からみた自然の姿を紹介します。

季節とトンボのうつりかわり

水田にはサギなどの水鳥、カエル、貝類、ドジョウ類、甲殻類などといった具合に、多くの分類群がいることが知られています。水生を除いた昆虫類も水田の450種確認に対して、一般の畑は多くても200種程度に過ぎません。

[写真1]は春4月の城北穴川の水田風景ですが、菜の花畑の黄色と登熟前の麦の緑が並んでいます。1年を通じて環境が多様に変化することが、水田に生き物の種類が多い理由としてあげられます。

写真1 春稲作前の城北の水田―菜の花と麦の緑が映える

春のこの時期、トンボでは一番手としてシオヤトンボ[写真2]が出現します。
もう1つの春のトンボ、アサヒナカワトンボは比較的速い流れを好むごくありきたりのトンボ種ですが、国際的には注目されています。なぜなら、雄にはオレンジ色[写真3]と透明の翅色[写真4]の二型があり、前者は縄張り行動を、後者は前者の縄張りの周囲にひそむスニーカー行動をとるからです。このような多型を有するトンボは、外国では極めてまれな存在といえます。

写真2 春最初に出てくるシオヤトンボの雌
写真3 アサヒナカワトンボの雄オレンジ型縄張りを張る
写真4 アサヒナカワトンボ雄透明翅型―雌に似せてスニーカーとなる

5月末、シオヤトンボの発生にかげりが見えるころ、水田への水入れが始まります。これに合わせて、ホトケドジョウが水田に入り込み、産卵を行い、また、アマガエルに似たシュレーゲルアオガエル[写真5]も水田の土中に卵を生み込みにきます。

写真5 シュレーゲルアオガエル―アマガエルに似る