田への水入れ後、稲が生長するまで水田域には広大な水面[写真6]が形成され、この空間をほぼ独占するのがシオカラトンボの成虫の第一世代[写真7]です。ほかに競争者がいないため、産卵し放題となります。ただし、水中では秋に産下されていたアキアカネナツアカネの卵が孵化し、同じ肉食同士という関係のため、大きいヤゴが小さいヤゴを食べるギルド内捕食の状況が繰り広げられます。
シオカラトンボ成虫は成熟すると腹部が白い粉で覆われますが、最近の研究では、これが今までわかっている生き物由来のどの物質とも異なるワックスで、強く紫外線を反射することがわかりました。これで、直射日光のもとで縄張り行動をする雄たちの体を守っているようです。

写真6 田植え直後の広い水面
写真7 シオカラトンボの雄―広い水田面を独占する

北上する生き物

現在、地球環境問題として、生物多様性のほかに気候変動が叫ばれています。
温暖化により、多くの生物群で南の種類の北上が報告されています。
トンボも例外ではありません。もともとは静岡県あたりを北限としていたホソミイトトンボ[写真8]が、城北の水田で数年前に何頭も捕獲され、現在ではすっかり定着しています。

写真8 北上種のホソミイトトンボ―成虫で越冬し出てきた個体

水田では、このようにトンボが中心となって季節が進んでいき、夏を迎えます。
周囲の畑地や山林に目を移すと、このイトトンボのように南国から北上してたどりついた昆虫がほかにもいることがわかります。
9月頃になると急増するツマグロヒョウモン[写真9]がそれです。かつては近畿地方あたりを北限としていたこのチョウも、現在は相模原市内で普通に飛んでいる状況です。スミレ類を好むため、パンジーが食害された例も報告されています。

写真9 北上種のツマグロヒョウモン―スミレを食べる

また、2019年9月には、城北センターのサクラの木からは、キマダラカメムシ[写真10]も発見されました。200年以上も前に長崎県の出島に侵入していた外来種で、近年になって著しい北上を遂げた大型のカメムシです。

写真10 北上種のキマダラカメムシ―サクラの木を好む